リテールメディアとATDとPTD、ときどきAOP
本来、リテールメディアの概念に近いのは PTD (パブリッシャートレーディングデスク)ですが、日本ではATD (エージェンシートレーディングデスク) 的なリテールメディアの方が普及しています。
こんにちは✋廣瀬です。日々順調ですか?
呪文のようなタイトルになっていますが、今回は IT 業界あるあるの英語頭文字 3 文字シリーズですw 「ATD と PTD 、ときどき AOP」についてリテールメディアと絡めて触れていきます。
ふと思ったといいますか、当たり前といえば当たり前なのですが、リテールメディアって、小売業者がリテールメディアやろう!(そんな勢いではやらないと思いますが)となった場合、リテールメディアを運用するための広告プラットフォームである、リテールメディアネットワーク (RMN) を立ち上げて、広告ビジネスを運用することが米国では一般的です。
この概念、というか小売業者がリテールメディア化するなかで、自社の資産である購買データ(ファーストパーティーデータ)やオウンドメディアを活用して、クライアントから広告予算を預かり、運用してパフォーマンスをお戻しするというスキームってまさに、パブリッシャートレーディングデスク (PTD) と同じなんですね。そういう軸で考えると、日本でも現実味あるんじゃないかという気もしましたのでそのあたりを掘り下げてみます。
📣この記事でわかること
トレーディングデスクとは
エージェンシートレーディングデスク (ATD) とは
パブリッシャートレーディングデスク (PTD) とは
PTD のメリット
PTD のデメリット
PTD の事例
リテールメディアの概念は PTD そのもの
AOP (Association of Online Publishers) とは
日本では ATD タイプのリテールメディアが発展している
それでは本編スタートです。
トレーディングデスクとは
簡単に言うと運用サービス事業者です。マーケターはオンラインで広告キャンペーンを実施する際、目的、予算、ターゲットなどを踏まえ KPI が最大化するようプランニングします。そしてどのような面を買い付ければ目的に達するのかメディアプランを作成します。TVなのか、ソーシャルメディアなのか、検索なのか、オープンウェブなのか、アプリなのか、CTVなのか、などなど。そのメディアプランを踏まえ広告運用するチームがトレーディングデスクです。
ただ、トレーディングデスクの文脈では主にオープンウェブ、もっというとデマンドサイドプラットフォーム (DSP) を使い、クライアントに代わって広告在庫を買い付ける(これをプログラマティック広告といいます)チームを指します。トレーディングデスクサービスは多くの場合、大手代理店の内部組織もしくは、関連会社となっていることが多いです。なぜなら運用スキルを持った人材と技術インフラを備えたより大きなフルサービスの企業の方がスケーラビリティのあるビジネスになるからです。
海外でトレーディングデスクが非常に増えた時期がありましたが、当時はそれほど儲かるビジネスであったこと、そしてそれがプログラマティック広告の普及につながったというのは余談です。
エージェンシートレーディングデスク (ATD) とは
このように大手の代理店は必ずといっていいほど自社の案件を扱うトレーディングデスクを持っており、これが ATD です。ATD のセールスポイントはクライアントがDSP を自社運用するよりも、高い運用成果をだせるよう進化していることです。
最新のテクノロジーを維持し、多数の運用スキルを持つ人材、DSP だけでなく、DMPや広告サーバー、ライセンスを取得したアドテク機能提供するところもあります。また当然、自社で DSP の運用が難しいクライアントが運用を依頼します。
課題感としては、常に透明性や効率性を求めるクライアントは ATD のような機能の内製化を進めること、コスト重視のクライアントとのコストプレッシャーです1。
パブリッシャートレーディングデスク (PTD) とは
PTD とはその名の通りパブリッシャーであるメディア事業者が提供する広告運用サービスです。パブリッシャーが保有するデータを活用してメディアの収益を最大化するための広告チームで、オウンドメディアや外部メディアに広告配信を行います。広告主は PTD を利用すると広告を購入する際にパブリッシャーのデータを活用することができます2。
PTD の重要なセールスポイントは、必ずしも広告在庫そのものではなく、むしろ PTD がデータをどのように使用して入札し、メディアを購入できるかにあります。パブリッシャーは、さまざまな視聴者、その嗜好、習慣に関する幅広い内部データにアクセスできます。多くの代理店が把握することができない、ウェブサイトやアプリでの顧客の行動を直接知っており、将来の変化の可能性を認識しています。パブリッシャーは自社データを熟知しているため、プログラマティック広告購入においてかなりの優位性を持っています。
ATD との大きな違いは、ATD が使うデータはサードパーティーデータを含め複数の代理店が利用できる流通されているデータを使ってターゲティングするのに比べ、基本的に PTD はファーストパーティーデータのみを使用することです。
PTD のメリット
パブリッシャーデータの収益化
PTD に使われるデータはそのパブリッシャーのファーストパーティーデータが基本です。これはそのパブリッシャーが独自に収集し、セグメントされたデータであるため、ブランドや代理店はこのデータに大きな価値を見出します。さらに特定の層をターゲットするために、割増料金を支払うケースもあります。
効率的なメディア購入
ATD を利用して買い付けるよりも、PTD は消費者をよく知っているため、ATD よりもターゲティング精度が高く、そのためのテクノロジーを持っています。結果キャンペーンのメディア購入が効果的になり広告主からみたコストが安くなる可能性 (ROIが高くなる) 可能性があります。
360° 透明性の実現
PTD のファーストパーティーデータに基づくターゲティングプロセスとキャンペーン成果について、ATD よりも深いインサイトを提供でき、この透明性がブランドや代理店にとっての魅力のひとつです。
PTD のデメリット
下記事例でもありますが、PTD ビジネスを大きく展開しているメディア (パブリッシャー) は ATD 程多くありません。メディアも星の数ほどありますが、PTD を実施できるメディアは限られているようです。理由として考えられるのは、
メディアの規模感(アクセス数、オーディエンス数、広告在庫数、ファーストパーティーデータのボリューム等)
組織体制(営業チーム、運用チーム、分析チーム等)
テクノロジーの構築(DSPや広告配信プラットフォーム、社内データのマネージ、アドサーバー等)
少し考えただけでも、これらのことが浮かび上がります。このように見るとメディアが PTD ビジネスを始めようとすると、比較的大きな投資が必要になります。これはメディアにとって大きな決断が必要です。
PTD の事例
リテールメディアの概念は PTD そのもの
このように見てくるといかがですか?リテールメディア (RMN) は PTD の概念と似ていませんか?メディア運営者(パブリッシャー)が小売業者に置き換わっただけです。PTD のメリットはそのまま RMN のメリットになり、デメリットも然りです。日本のリテールメディア文脈でもオウンドメディアや、ファーストパーティーデータのスケラビリティーはまず最初に対峙する大きな課題ですし、プラットフォームの導入や体制を整える必要があることもそうですね。
メリットはやはり小売業者の大きな資産であるファーストパーティーデータを収益化できること、すなわち、価値あるセグメントに精査してメーカー、ブランド広告主に対して RMN を通じた広告ソリューションを提供できることではないでしょうか。これは今年 2024 年訪れるであろうサードパーティークッキーの崩壊と合わせて考えると大きなアドバンテージになるはずです。営業チームがメーカー、ブランド広告主から広告予算を獲得し、運用し、レポーティングするというサイクルは PTD のそれと一緒です。レポーティングの文脈では以前も記事化していますがクローズドループ測定ができるのでオンライン、オフライン、オンサイト、オフサイト、複数デバイスを横断したどこの広告の表示からコンバージョンに至ったかを把握できることはリテールメディアの特徴のひとつです。ここは大きな差別化ですね。
ただ、パブリッシャーと小売業者の違いがあります。違いについてはこちらの過去記事をご参照いただければと思いますが、一言で言えば小売業者はリテールメディアの主戦場 (欧米では) のデジタル広告に縁遠いという点で、広告は実施しているもののインハウスの広告代理店的な機能を持ち合わせる RMN を立ち上げるには、商習慣からナレッジ、リソース、多方面でそのような人材を育成、獲得していく必要はありそうです。
AOP (Association of Online Publishers) とは
AOP を一言で言えば、パブリッシャーアライアンス(パブリッシャーの共闘)です。広告在庫、オーディエンスボリュームが小さくスケーラビリティを出しづらいパブリッシャーが連合して、ファーストパーティーデータを持ち寄り、一元管理することでスケーラビリティを出す形態を指します。この取り組みも昔からグローバルでは特に北欧、欧州など Google をはじめとする大手プラットフォームに対する対抗手段として組まれてきました。こちらも複数のパブリッシャーを誰が旗振りをし、どのようにまとめ、ルールや標準化など複雑なチャレンジをクリアして今に至っています。日本でも同じようなコンセプトでのアライアンスがありますがいまひとつ成功事例となりえていません。
こちらもリテールメディアに置き換えることができます。スケーラビリティのない、もしくはニッチな小売業がリテールメディアビジネスを実施するために連合するという取り組みです。前述の通りいろいろ複雑なチャレンジが想定されますが、このような動きが日本でもあってもよいと考えます。
〆まとめ
いかがでしたか?
日本の状況を考えてみると、小売業者に限らず自社データを収益化しようという動きが出てきています。コンビニエンスストア、ドラッグストアをはじめとして、銀行業、決済事業者なども広告の領域に自社データを活用する動きがでてきています。これはリテールメディア的には第一歩ですよね。一方で、自社でその収益化をするというところは限られており、一部の大手コンビニエンスストア、ドラッグストアがベンダーとのパートナーシップで始めています。自社でリテールメディアビジネスを始めるには、大きな決断と投資が必要になるので、データをまず預けて、デマンド(広告主)を持っているパートナーと協業していく、どちらかというとデマンドドリブン(広告主、代理店ありき)でのリテールメディアソリューションが先行している所感です。今回の内容に当てはめると ATD ですね。
🖊編集後記
先日久しぶりにお誘いを受け、ゴルフコンペに参加しました。お医者さん関係が 7 割、アパレル 2 割、その他 1 割というかなり場違いなところに参加してしまったな。と行ってみて思いましたが、皆いい人たちでゴルフ後の飲み会ではたくさんおもしろい話がありました。同い年の人が 4 人もいたのは気持ち的に心強かったですね(トータル 4 組 16 名でした)。異業種交流会的なところに行く気には、なかななれないですが、ゴルフとかだと自然に入れますね。あ、ラッキーなことに優勝できまして(新ペリア)小銭を頂けたので、猫と留守番してくれた奥さんにお渡し致しましたw
それではまた次回。
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