ウエルシア薬局がCriteoリテールメディア・プラットフォームを導入を決定(後編)
ドラッグストア大手のウエルシアが、Criteoのリテールメディアプラットフォームの導入を決定したというリリースが出ました。今後の期待を込めて考えられる取組みを見ていきたいと思います。今回は前回の続編です。
こんにちは✋廣瀬です。日々順調ですか?
2024年 2 月 20 日にECにフォーカスしたアドテク企業のCriteo社がドラッグストア大手のウエルシア薬局が、自社のウエルシアドットコム上に配信する広告プラットフォームとしてCriteoを選択したというリリースがでました。
個人的にはこの取組みが欧米流のリテールメディア文脈を踏襲できるか、非常に期待値があるからです。
前回リリースの内容に触れましたので、今回はこのディールにより実現し得ることと、それに伴うチャンレンジなどを考察してみたいと思います。
📣この記事でわかること
このディールにより実現し得ること
それでは本編スタートです。
このディールにより実現し得ること
ウエルシアドットコムでの広告による収益化
当然、このディールの第一義的な部分としては、ウエルシアドットコムでの広告による収益化でしょう。
Criteo社のリテールメディア・プラットフォームの強みのひとつとして SPL (Sponsored Product Listing) が打てるので、ウエルシアドットコム上で消費者にまず検索してもらって、広告表示をすることが軸になるかどうか、大きなポイントです。
なぜなら、Amazon, Walmartなど米国トップのリテールメディアネットワーク (RMN) はもちろんのこと、RMN の広告の約 70% は SPL からの収益だからです。サイト全体の検索数によって売上が大きく変わってくるので、非常に重要なポイントです。
ポイントは以前、SPL広告についてシリーズ化した記事を書きましたが、SPLを導入するにはハードルがあります。下記に以前の記事から引用すると、
検索窓を表示させ、検索結果を表示させなくてはならない(当たり前ですが、結構、検索をメインとしたサイト構成、UIになっていないことが多い)
検索数が多くなくてはならない
検索数を増やすためには、取り扱い製品、サービスのボリュームが必要
スポンサードリスティング広告を提供するテクノロジーが必要
運用管理担当者が必要
Criteo リテールメディア・プラットフォームを導入するので、上記の 4 は既にクリアですよね。
1 については、ウエルシアドットコムも検索窓を中央の上部においていますが、まだ弱い印象です。検索主体のUXを意識したデザインに変化していくと思います。
2 の検索する消費者の母数も大きな変数要素なので、ウエルシアドットコムのご担当者がおっしゃっていたように実店舗へ来店している消費者を如何にウエルシアドットコムへ誘導するか、そのためにオフサイト広告を使うという手もあります。
3 の取扱製品のボリューム、そして既にウエルシア薬局と取引のあるメーカー、ブランドの数はドラッグストアの強みでもあるので、問題はありません。
あとは如何に、SPL広告を利用してもらうかの啓蒙、セールス活動が必要でこれはCriteo社というより、ウエルシア薬局側のミッションになると思います。いわゆる検索連動型広告はデジタル広告ではメジャーな広告商品のひとつなので、理解はしてもらえると思いますが、課題はやはり広告主の期待値とパフォーマンスですよね。イニシャルローンチでどれぐらいの広告主が参加できるのか気になります。
5 の運用管理担当者はこのディールではどちらに置いているのか不明ですが、RMN側に置くことが多いと思います。
RMNは、SPLでのマネタイズ(収益化)だけではもちろんないので、SPL以外のオンサイト広告を活用すると思いますが、こちらもまずウエルシア薬局との取引のあるエンデミック広告主である、メーカーやブランド広告主にセールスに行く必要があると思うので、これもウエルシア薬局側が広告営業チームを持つということになるのでしょう。
いずれにしても、SPL, オンサイト広告共に広告配信機会(検索回数と広告インベントリのボリューム)をどれだけ確保できるかが、サステイナブルな売上につながるのでウエルシアドットコムのサイトの成長と広告主へのセールスが大きなポイントです。
ファーストパーティデータとオフサイト広告の活用
ウエルシアのRMNにとって、SPLとオンサイト広告は高収益モデルではあるものの、サイト規模に依存してしまうので、広告売上の伸びしろとして大きいのはオフサイト広告になるでしょう。
理由は簡単で、オウンドメディアであるウエルシアドットコムよりも、第三者であるオープンインターネットのWebサイトインベントリの方が、圧倒的に広告在庫ボリュームを確保できるからです。
その場合、重要になってくるのがいわずもがなファーストパーティデータ、いわゆるウエルシア薬局、ウエルシアドットコムが持つ購買データを取り込み、広告ターゲティングに活用することが大前提です。
もちろん現時点でCookieが使えなくなったわけではないですが、RMNの本筋からすると小売業者の購買データを使った広告配信というのがRMNの原点であるので、このデータを使えなければ広告主もついてこないと思います。もちろんこのデータはオフサイト以外にもオンサイトでも使います。
オフサイト広告配信は、エンデミック広告主(ウエルシア薬局と取引のある既存広告主(メーカー))はもちろんのこと、ノンエンデミック広告主(現状ウエルシア薬局で取引のない広告主)の獲得が重要です。リリース上では、「外部からの集客を可能にするオフサイト配信」と表現していますが、外部在庫に広告配信してウエルシアドットコムへの集客をするという意味では、自社広告(ウエルシアドットコムの広告)でサイトへの集客を可能にすることもできます。これは前述のいかにウエルシアドットコムのサイトとしてのボリュームを成長させるかに関わってきますが、当然コストがかかります。オウンドメディア自社広告を出すのではなく外部在庫に広告をだすということは、当然外部在庫の広告枠を買い付けることになるからです。
RMNとしての本来のオフサイト配信という意味では(もちろんこちらが主軸となるでしょうが)、ウエルシアドットコムのファーストパーティデータを使ったRMN広告に期待する広告主から予算を獲得し、ウエルシアドットコムのファーストパーティデータを活用した、外部在庫への広告配信し、広告収益をたてることです。
これは、代理店ビジネスにつながっていきます。
欧米では 、
Publisher Trading Desk (PTD)
Agency Trading Desk (ATD)
という形で、前者はパブリッシャー、いわゆるサプライ側のデータを活用してトレーディングデスク(広告ビジネス)を営むケース、後者はデマンド(広告主や代理店サイド)のデータを活用してトレーディングデスクを営むケースを指します。
この観点からいうと、今回の取り組みは明らかに前者になります。
小売業者であるウエルシア薬局が持つ購買データを活用して、オウンドメディアであるウエルシアドットコムに広告を配信することがオンサイト広告配信
ウエルシア薬局が持つ購買データを活用して、第三者の広告在庫に配信するオフサイト広告配信
になるからです。
ちょっと複雑になってしまいますが、ウエルシア薬局自体が広告主になることで自社のRMNを使ってオンサイト、オフサイト両方に広告配信できます。Criteo リテールメディア・プラットフォームはDSP/SSP両方の機能を備えているので可能だと思います。前述したウエルシアドットコムへの集客という意味ではこの形が当てはまりそうです。
一方で別の話になりますが、ATDのケースも考えられます。日本ではこちらのほうが多いかもしれないです。いくつかの大手ドラッグストアやコンビニエンスストア、スーパーマーケットが購買データを、リテールに強い代理店やソリューションベンダーに渡して、広告活用するケースがそれです。これはRMN的にはど真ん中ではないですが小売業者のデータを使った広告配信という意味ではRMNに含まれると考えています。この取り組みは今回のウエルシア x Criteo社との取り組みとはズレルと思いますのでここまでにします。
クローズドループ測定
ファーストパーティデータの活用と肩を並べて大事な物があります。それがCLM(クローズドループ測定)です1。これがなければRMNは語れないと行ってもいいぐらい重要です。
小売業者のファーストパーティデータの広告活用とCLMの両輪が回って初めて欧米流のRMNとなります。CLMがあることで広告キャンペーンに対するROIが可視化できます。リリース上で言う「配信した広告が当社だけでなく、ブランド広告主の売上目標の達成にどのように貢献しているか可視化できる堅牢なデータ分析とレポーティングにも期待」というのはCLMを指していると推測します。
各キャンペーンの成果を可視化し、KPIを達成していることを確認できれば、広告費をさらに追加投入できる機会を得られることを意味します。このようにしていま日本のみならず、世界を席巻している検索連動型広告やソーシャル広告は予算を獲得してきました。RMNが欧米でこれらに続くサードウェーブに成り得ているのはこの両輪があるからです。逆に言えばこの両輪がないRMNは欧米のような成功は難しいと思います。
なので、廣瀬個人としてはこのディールが成功することが日本でも欧米流のRMNが成立することの証明にもつながるので非常に期待しています。
広告を販売するチーム、広告を運用するチーム
上記から必要性を認識するかと思いますが、広告ビジネスを全てアウトソースすることは難しいです。アウトソースすればするほど当然ですが利益が減ってしまいます。テクノロジープラットフォームはCriteo リテールメディア・プラットフォームを選択しましたが、広告ビジネスではそれを基盤に、広告主からの広告予算の獲得、運用、レポーティングなどいわゆるデジタル広告のPDCAを広告ビジネスとして回していくためのチーム、もっというと全社的な動きが必要です。
Walmartなどは外部からデジタル広告に強い背景のある人材を多く採用して、短時間でビジネスを確立していきました。ウエルシア薬局もどれだけ早く、RMNを立ち上げられるか、日本の欧米流のリテールメディアに近づけるかは、社内組織の立ち上げも大きなポイントになります。
アプリをどうするのか?
ウエルシアに限らず、日本のドラッグストアやコンビニエンスストアのアプリはWebサイトとカニバルことがイヤなのか、それともリソースが原因なのか不明ですがアプリはほぼ、通知(情報共有)とクーポン、そしてポイントを付与するなど本業(小売物販EC)とは全く別の用途、いわばチラシのお得情報を位置情報使ってお知らせするアプリと化しています。ポイントやクーポンは海外にも存在しますが、これは多分日本独自の発達の仕方なのかなと思います。
Amazon, Walmartなどの海外のRMNはアプリを含めたモバイルでの売上、モバイルショッピング体験をいかに快適なものにするかがひとつの大きな戦略になっています。米国は非常に合理的なので、利用率の高いデバイスに投資していくことは当然でそこに集中します。なぜならそこが主戦場だからです。
日本の小売業のEC化率の低さ、モバイルショッピングへの投資ができない。ポイント付与や位置情報活用など活用していますが、アプリオーナーである小売業者が代理店やポイントソリューションベンダーを含む第三者に取り込まれている印象です。
この主体性はひとつ大きなポイントな気がします。アプリのオーナーである小売業者がどうしたいのか?
欧米はアプリを含むモバイルを、ダイレクトな売上のドライバーとして位置づけています
日本はアプリの位置づけを、実店舗への集客へのタッチポイント、インダイレクトな売上貢献を志向しています
良い悪いではなく、小売業者、RMNオーナーがどうしたいか?
個人的にはRMNの目的の大きなモチベーションは広告売上事業の高収益ビジネスを既存の物販ビジネスと融合することで、小売企業としてのより強固な企業体質に変えるという観点では、実店舗への集客へのタッチポイントという位置づけではアプリ自体で売上を上げることはできず、逆に集客をするためのコスト(クーポンや、ポイントなど)を加速する側面を加速する懸念があります。
もちろん、利用者数の多いアプリに広告を配信するとは思いますがアプリの位置づけが実店舗への集客に限定されると、購入に至る為の広告というよりは認知、ブランディングの広告しか入らないような気もします。
ウェルシア薬局は Tポイント、WOAON POINTが使えますしこのポイントや 10% などの割引クーポン的なもの当然継続するのでしょう。
最終的にはモバイルのWebに誘導する形になるのかな、と書きながら思いましたがそのような導線は無いんですよね。
アプリで売上は一切起きない、お知らせアプリでこのままいくのでしょうか。
ユーザーに接点がいちばん近いスマートフォンで売上を上げなくていいのでしょうか?
アプリの立ち位置はホント気になります。
JBP(ジョイントビジネスプラン)の取組み
JBPは欧米のRMNではスタンダードで、活発に取り組みが行われています。これはRMNとしてのビジネスが軌道に乗る、アクセラレートするためにポイントになると思います。もう既にこのようなことは小売業者とメーカーの間でいろいろな形でなされていると思いますが、RMNをベースとしたJBPができてくると、いよいよ日本でもRMNが普及してきたと考えられるようになるのではと思います。
JBPについては、こちらの記事で触れていますので参照ください。
〆まとめ
いかがでしたか?
ちょっと長くなってしまいましたw
日本最大級のドラッグストアがリテールメディアにしかも欧米流のプラットフォームを導入を大きくリリースしたことは、日本での欧米流のRMNが認知、普及に向けて大きなきっかけになるのは間違いなく、めちゃめちゃ期待しています。
是非、導入しただけに留まらず大きく発展してほしいです。同業界にいる私としても非常に期待すると共に、励みになりました。
🖊編集後記
なんか最近、打ち合わせで気になる光景に出くわします。その光景とは、打ち合わせの時間をいただいてお伺いしているのですが、打ち合わせの最中にノートパソコンで別のことをやっているっぽい光景です。なぜ別のことをやっているのかわかるかというと、話をしながらメモをとっているとか、話の内容の延長線で資料や、ブラウジングなどしているならその後、それらを共有してくれたりしてくれるはずなのですが、明らかに私が話している最中に別のことをやっていることや、間が空くときなど、極めつけは空返事のような場合すらあることもあるので、人と会うことが多ければ自然とわかると思います。
最近、複数回そのような光景にでくわしたので、複雑な気持ちになりました。新規のお話だと「ちょっと違うな」というケースは確かにあるので、お互い無駄な時間にならないようにしたいのですが、最終的にはお話する相手を間違えたかなと思うようにすると共に、自分がやらないように気をつけますw
それではまた次回。
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